遠い方が見える

山間の道から眺めると、すぐ下にある木の幹は霧に隠れているのに、その向こうの遠い稜線は青く見えていた。近いものが消え、遠いものが残る景色だった。
ものは遠ざかるほど見えにくくなると思っている。手前の木は葉まで見え、奥の山は輪郭だけになり、さらに遠ければ空へ溶ける。距離が、細部を順番に奪っていくはずだった。
しかし霧は、目からの距離に沿って並んでいるわけではない。低い谷を横へ満たし、その層に入ったものを近くても隠す。遠い山でも高い部分なら霧から出て、途中にある木より先にはっきり見える。
見える順番は、近いものから遠いものへ一列に並ぶとは限らないらしい。視線の途中に何があるかだけでなく、それぞれがどの高さの空気にいるかでも決まる。距離の列を、霧の層が途中で飛び越えさせる。
日が高くなるにつれて、手前の木の幹が下から戻ってきた。遠い稜線は同じ場所にあるのに、急に遠くなったように見えた。距離が変わったのではない。近い景色が、本来の順番へ戻ってきたのである。