或る世界

頭上の余白は膝にある

身体を畳むと、低い場所にも居場所ができる

低い屋根の下へ入ろうとすると、最初に頭を下げる。まだぶつかりそうなら腰を曲げ、それでも足りなければ膝を胸へ寄せる。場所の高さは変わらないのに、身体の方が少しずつ短くなっていく。

立っているとき、自分の大きさは決まっているように感じる。頭の先から足の裏までが一人分で、それより低い隙間には入れない。しかし、身体には関節があり、折り畳む順番がある。長さを失わずに、占める高さだけを変えられる。

狭い場所へ身体を合わせることは、ただ窮屈になることではないらしい。膝を抱えれば脚が壁になり、腕を回せばその姿勢を支えられる。立ったままでは通れなかった空間が、座る形には小さな居場所になる。

広い場所では、身体を伸ばせることを自由だと思う。けれど、旅の途中には、伸びるより畳めることに助けられる時間もある。椅子の間、低い窓辺、荷物の脇。場所を広げられないとき、関節がこちらの寸法を少しだけ変えてくれる。

立ち上がると、頭上にあった余白はすぐ消えた。身体が大きくなったのではない。畳んで膝のあいだへ預けていた高さを、もう一度縦へ戻したのである。