ピントの薄い壁

同じ姿勢の像が何列も並ぶ前で、中央の一体へカメラを向けた。顔にピントが合うと、その左右に並ぶ像の顔も一緒に鮮明になった。選んだのは一体のつもりでも、焦点は一列へ届いていた。
ピントは、画面の一点に置くものだと思っていた。しかし実際には、カメラから同じくらい離れた場所へ薄い壁を立てるようなものらしい。その壁を通る像は、中央でも端でも輪郭を得る。手前と奥にいる像は、画面の中央に近くてもぼけている。
写真の上では、横に離れた像より、すぐ手前にいる像の方が中央の像に近く見える。けれども焦点が測るのは、画面上の隣り合いではない。こちらからどれほど奥にいるかで、同じ列へ入れる相手を決めている。
人は横へ並んだものを一群として数えやすい。しかしレンズの中では、奥行きにも見えないまとまりができる。同じ距離にいるものは、互いに離れていても一枚の面を共有し、その前後にいるものとは細部の有無で分かれる。
焦点を少し奥へ送ると、薄い壁も後ろへ移った。さっきまでぼけていた列の顔が揃って現れ、手前の列は一緒に輪郭を失った。像は動かないまま、写真の中の列だけが一段ずつ入れ替わった。