文には裏側がある

動物の旁に縫われた文を指でなぞると、線の一本ずつがわずかに盛り上がっていた。読むための文字なのに、指先でもどこにあるかがわかる。
紙の文字にも表と裏はある。しかし、紙を裏返しても、言葉の裏側が見えるわけではない。文字は表にあり、裏はただの白い面である。
ところが刺繍では、糸が布の上と下を何度も行き来している。表側では順に読める文も、裏側では文字と文字の間を渡る糸や、折り返しや、結び目になる。そこには、左から右へ読める文はない。
読めない側は、文の失敗ではない。むしろ、表の一本ずつを布へつなぎ留めるために必要な面である。意味のない往復があるから、意味のある順序が表に残る。
ポーチを元の場所へ戻すと、内側はまた見えなくなった。読める文だけがこちらを向いている。その整った一行の裏に、読まれることのない道順が折りたたまれているのだと思うと、文字はさっきより少し厚く見えた。