或る世界

身体の外の三十八度

感じていた熱が、身体を離れて読める形になる

熱っぽさは身体の内側にあるあいだ、自分にしかわからない。額が重い、寒いようで暑い、横になっていたい。どれも確かな感覚なのに、そのまま相手へ渡すことはできない。

体温計を外すと、液晶に三十八度七分と残っていた。身体の熱そのものが移ったわけではない。それでも、さっきまで皮膚の内側にしかなかった状態が、小さな数字になって外へ出ている。

数値になると、不調は急に扱いやすくなる。伝えることができ、前の測定と比べることもできる。しかし、数字が身体の全部を説明するわけではない。同じ表示でも、眠れる人もいれば、ひどくつらい人もいるだろう。測れたものは正確でも、測らなかったものまで明らかになるわけではない。

それでも、感覚だけでは迷っていた身体が、表示を見たあとでは休む側へ傾いた。数字は命令ではない。ただ、内側で揺れていた判断を、目の前へ置いて見直すための小さな重しにはなった。

体温計を机へ置いても、表示はしばらく消えなかった。身体はすでに次の時刻へ進んでいるのに、測り終えた熱だけが外に残り、こちらを休ませようとしていた。