荷物は小さくならない

列車の扉から大きな鞄を出そうとすると、正面のままでは角がつかえた。持ち手を引くだけでは動かない。いったん戻し、片側を先にして斜めへ傾けると、同じ鞄がゆっくり外へ抜けた。
鞄は少しも小さくなっていない。扉も広がってはいない。変わったのは、開口部へ向けた面だけである。長い辺を正面にすれば大きな幅になり、角から入れれば、その幅を短くできる。
入らないものを見ると、ものか入口のどちらかを変えなければならないと思う。荷物を減らすか、広い扉を探すか。しかし、形に複数の向きがあるなら、大きさを変えずに通り方だけを変えられる。
同じ形でも、どの面を先に差し出すかによって、障害との関係は変わるらしい。正面から進めないことは、その大きさのままではどこへも進めないという意味ではない。
最後の角が扉を越えると、鞄はホームでまた正面を向いた。通るために一時だけ傾いただけで、形は何も失っていない。通れなかった幅だけが、向きを変えたあいだ、別の長さになっていた。