或る世界

川は少しずつ見える

見えない先まで、次の水面だけは続いている

細い水路では、遠くまで見通すことができない。両側から伸びた葉が視界を狭め、少し曲がれば、その先の水面も隠れてしまう。舟から見える道は、いつも短かった。

陸の道なら、遠くの建物や標識を目印にできる。どちらへ進んでいるか、目的地までどれほど残っているかを、先に眺めることもできる。しかし、曲がる水路では、行き先より先に、次の数十メートルだけが現れる。

見通せないことと、進めないことは同じではないらしい。舟が少し進めば、葉の向こうから新しい水面が開く。そこまで行けば、さらに次の曲がりが見える。全体を一度も見せないまま、川は通るぶんだけ道を渡してくる。

遠くまで見える道では、先に見通しを得てから身体を動かせる。しかし、この水路では順序が逆になる。見えている範囲を先に進んだために、その先が初めて見える。見通しは出発前に持つものではなく、移動のあとから少しずつ受け取るものだった。

舟が曲がると、さっきまで正面にあった水面は葉の陰へ消えた。代わりに、別の短い道が光の下へ現れた。川の全体は最後まで見えなかったが、進むための水面だけは、一度も途切れなかった。