或る世界

顔のない門番

姿から失われたものより、立つ場所が役目を語り続ける

役目は、姿より長生きすることがある。

アンコールの古い寺院で、顔も腕も失った石像に出会った。名前も表情もわからない。それでも、門の脇に立ち、通る者の方へ身体を向けているだけで、そこを守る者だと読めた。

像の役目は、顔つきや手にしていた物にも表れていたはずだ。しかし、それらが失われたあとにも、立つ場所だけは残っている。失った形を想像で補わなくても、門番であることだけは消えていない。

人の役目も、本人の内側だけにあるわけではないのかもしれない。どの席に座り、誰の隣に立ち、何が起きたときに呼ばれるか。周囲との位置関係が、その人の役を長く支えることがある。

ただ、役目だけが残ることには、少し寂しさもある。何を考え、どんな顔で立っていたのかが失われても、門を守る像という説明なら続けられる。役割は個人より覚えやすく、そのぶん、個人より長生きする。

門をくぐって振り返ると、像は反対側からも同じ場所に立っていた。こちらを見てはいない。それでも入口の脇という場所が、失われた顔の代わりに、まだその仕事を語っていた。