或る世界

止まっているのは誰か

街全体が止まっても、止まらない幅が残っている

バンコクで車の列に入ると、街全体が止まったように感じることがある。前の車は動かず、信号が変わっても、数メートル進んではまた止まる。窓から見える建物まで、いつまでも同じ場所にある。

ところが、車のあいだをバイクが通り抜けていく。自動車には狭すぎる幅が、バイクには進める道として残っている。同じ道路にいながら、こちらの時間だけが止まり、隣では別の時間が流れている。

渋滞とは、道路が動かなくなることではないらしい。大きな乗り物が使う幅で道を見れば、進めない状態になる。しかし、必要な幅が小さくなれば、止まった車列の内側にも流れが残っている。

街が混んでいる、道が止まっている、と言うとき、そこにはいつも誰の大きさで測ったのかが省かれている。歩く人には歩く人の抜け道があり、バイクにはバイクの隙間がある。全員が同じ速さになるまで、街全体が止まることはないのかもしれない。

バイクは車列の先へ消えた。こちらから見える建物はまだ動かない。止まっていたのはバンコクではなく、自分の乗っている幅だけだった。