屋根の下では屋根が見えない

市場へ入る前、高いところから気になる場所を探した。赤い屋根の近く、青い屋根が並ぶ列の端。そのくらい覚えておけば、下へ降りても迷わず着けると思った。
ところが、テントのあいだへ入ると、さっきまで目印だった屋根が見えない。頭上にあるのは布の裏側ばかりで、赤いのか青いのかもよくわからない。隣の列との位置関係も、人と品物に遮られてしまう。
屋根の色は、市場の外にいるあいだだけ使える目印だった。そこへ入るためには役立つが、入ったあとの一歩までは案内してくれない。見つけるために使ったものが、着いたことを確かめるためには使えないのである。
最後の数歩では、焼いているものの匂いや、呼び込みの声、台の上に並んだ品物の方が頼りになる。赤い屋根の店、という覚え方を捨てて、目の前に届く合図へ手掛かりを持ち替えなければならない。
赤い屋根を探すのをやめ、覚えていた店の灯りを一つずつ見た。どこにいるのかはまだ曖昧だったが、探していた場所は、屋根の色ではなく、目の前の品物として現れた。