或る世界

雨は遠くで降っている

濡れない場所から見た雨は、ひとつの景色になる

遠くで降る雨は、傘を必要としない。こちらの肩も鞄も乾いたままで、雨は空と水面のあいだにある、少し暗い帯として見える。

雨が降っている、と言うときには、たいてい自分が濡れることを含めている。足もとが滑り、洗濯物を気にし、傘を持つ手がふさがる。雨は空の状態というより、身体に届く出来事である。

ところが、届かないところにある雨は、その意味を少し失う。手を伸ばしても触れず、音も匂いも届かない。空から下がっている濃い帯だけを見ていると、雨は天候というより、雲の一部のように思えてくる。

雨は、空のどこかで起きている出来事ではない。落ちた先で道を濡らし、窓を叩き、歩く速さを変える。その一方で、ほんの少し離れた場所では、何も変えないまま眺められている。

雲の下に細い雨の帯が見えた。こちらには何も落ちてこない。同じ空の中で、濡れているところと乾いているところのあいだに、思ったより長い距離があった。