或る世界

帰り道は重い

選んだものの重さが、残りの道順を書き換える

市場へ入ったばかりのときは、どの通路も同じように歩ける。荷物がなければ、気になる店へ戻ることも、入口からいちばん遠いところまで行くことも難しくない。

一つ買うと、道の長さが少し変わる。地図の距離は同じなのに、手に提げた重さのぶんだけ、遠い店はさらに遠くなる。もう一つ買えば、さっき通り過ぎた店へ引き返すことにも、小さな理由が必要になる。

買い物は、品物だけを選んでいるのではないらしい。一つ選ぶたび、その先を歩く身体の条件も選んでいる。重いものを先に買えば残りの道が長くなり、最後に回せば、そこまで売り切れずに待っているかが気にかかる。

空の袋を持つ人には、店が並んで見える。荷物の増えた人には、出口までの順路が見え始める。同じ市場を歩いていても、買ったものが地図へ見えない傾きをつけていく。

片手の袋を持ち直すと、入口の方へ身体が向いた。買う前にはどこまでも続いていた通路が、帰るための道に変わっていた。