或る世界

足もとの赤信号

同じ色でも、従うべき高さはひとつしかない

交差点では、赤い光が高いところにある。車からも歩道からも見え、どの道へ向けられた合図なのかを、灯器の向きと置かれた場所から判断できる。

雨のあとには、同じ赤が足もとにも現れる。色だけならよく似ている。しかし、路面の赤を見て立ち止まる人はいない。青に変わっても、それだけを頼りに渡り始めることはできない。

信号の意味は、赤や青の中だけに入っているのではないらしい。道路のどちら側にあり、どの高さから、どちらを向いて光っているか。その置かれ方まで含めて、ようやく命令になる。

同じ光でも、下へ移ったものは命令から景色へ変わる。雨水は信号を複製するが、その権限までは写さないのである。

足もとの赤をまたいで、頭上の青に従った。靴の下で色が崩れても、交通の流れは何も変わらなかった。