或る世界

時計をひと口

読もうと触れたぶんだけ、残り時間も形を変える

時計は、眺めても減らない。何度時刻を確かめても、文字盤や針はそのまま残り、こちらが見ているかどうかに関係なく同じ速さで進む。

アイスクリームの表面も、時間を知らせる。丸い輪郭がゆるみ、縁に小さな滴ができれば、手にしてからどれほど進んだかを、おおよそ知ることができる。

ただし、この時計は読むたびに形が変わる。ひと口食べれば、その部分にあった柔らかさも、滴も、まだ溶けていなかった時間も一緒になくなる。時刻を確かめるために時計を見たのか、時計そのものを食べたのかを分けられない。

残った形を見ても、どこまでが自然に溶け、どこまでが口へ運ばれたのかはわからない。進む速さは気温だけでなく、食べる速さにも左右される。持つ人が、この時計の読み手であり、もう一人の針でもある。

次の一口をかじると、落ちそうだった滴が消えた。時間を止めたわけではない。そこに記されていた時刻ごと、食べてしまったのである。