或る世界

火から一本ぶん

近づける先と離しておく手を、細い一本がつなぐ

火を使うとき、近づけたいものと、遠ざけたいものが同時にある。食べ物には熱を十分に届けたいが、それを持つ手まで同じ熱の中へ入れるわけにはいかない。

串は、その矛盾を一本の長さで引き受けている。先にある肉は火へ近づき、反対側を持つ指は熱から離れている。つながっているのに、置かれる環境は同じではない。

短すぎれば手が熱くなり、長すぎれば先をうまく動かせない。役に立つのは、火と手のあいだに必要な距離を残しながら、ひねった動きだけを端まで届ける長さである。

道具は、離れたものを近づけるためにあると思っていた。しかし、串がつないでいるのは、近づけてはいけない二つでもある。関係を切らずに距離だけを守ることが、その仕事なのだろう。

持ち手を少し回すと、火の上にある肉だけが裏返った。指先は同じ場所に残り、回したという知らせだけが、細い一本を渡って熱の中へ届いた。