或る世界

家が目的地になる

離れた距離のぶんだけ、帰る方角が生まれる

家は、そこにいるあいだ、目的地ではない。買い物や食事から戻るときには行き先になるが、扉を開けて中へ入れば、また単なる現在地へ戻る。

遠くへ離れると、家の役目が少し変わる。眠る場所でも、荷物を置く場所でもあることは変わらない。しかし、そこへ向かうには、乗り物と時間が必要になる。現在地だったものが、一つの行き先になるのである。

出発するまでは、知らない土地ばかりを目的地として考えていた。地図に印を付け、そこまでの道を調べる。家は地図を開く場所であって、印を付ける場所ではなかった。

ところが、離れた瞬間から、家にも経路が必要になる。いつか戻るなら、切符を選び、乗り継ぎ、扉の前まで移動しなければならない。出ていくことは、家を後ろへ残すだけでなく、未来の行き先を一つ増やすことでもある。

機体が陸から離れると、家のある方角は窓の外へ移った。どれほど先になるのかはわからない。それでも、出発点だった場所が初めて、帰るという名の目的地になった。