或る世界

交差しても会わない

地図の一点を、高さだけ違えて通り過ぎる

二本の道が地図の上で交差している。そこへ行けば道が一つに重なり、別の方角から来た人とすれ違うように見える。

ところが、片方が橋になり、もう片方がその下をくぐれば、二本の線は一度も同じ場所を使わない。上を歩く人と下を歩く人は、地図では同じ一点を通りながら、互いの姿を見ないまま離れていく。

地図は高さを畳んでしまう。橋の上も、トンネルの中も、一枚の面へ押しつけて線にする。そのため、紙の上の交差には、出会える交差と、決して出会えない交差が同じ印で描かれる。

同じ場所にいる、という言葉にも高さが抜けている。住所が同じでも階が違えば、隣にいるとは限らない。頭上を列車が通っても、乗っている人と道を譲り合う必要はない。

トンネルを抜けると、もう一方の道がどこを通っていたのかは見えなくなった。二本の線は交差したのではない。同じ一点を、別々の高さで通り過ぎただけだった。