或る世界

食べないための食料

手を出せないものだけが、最後まで残っている

彼岸花の球根には毒がある。普段なら食べ物の数には入らない。それでも、飢饉のときには、十分に毒を抜いたうえで食べられたことがあると聞いた。

食べられないものが、食料の備えになるというのは妙である。しかし、普段から簡単に食べられるなら、空腹になるたび掘り出され、いちばん必要なときまで残らないだろう。

毒は球根を食料の外へ置く。そのため、畑の作物や蓄えがなくなっても、土の中に手をつけていないものが残る。役に立たないと思われていた時間の長さが、そのまま最後の備えになる。

もちろん、毒が消えるわけではない。人が手間をかけ、危険なものを取り除けたときだけ、食べ物へ移る。最初から安全な食料ではなく、ほかに道がなくなったときに初めて、食べられる可能性を調べるものなのである。

食べ物は、食べられるから蓄えられるのだと思っていた。だが、最後まで残るには、すぐには食べられないことが役に立つ場合もある。土の下には、食料ではない姿をした備えが眠っている。