伝票には一杯

喫茶店で珈琲を一杯頼む。すると店によっては、トーストや卵が一緒に運ばれてくる。口にした注文は一つなのに、卓上では食べるものが複数になっている。
珈琲という言葉が、飲み物だけを指しているわけではないのだろう。ある時間にその店で使えば、朝の空腹を少し満たすところまで意味が広がる。客が一品ずつ付け加えなくても、店の側が一杯の内側へ食事を畳んでおいてくれる。
名前が同じなら、頼めるものもどこでも同じだと思いがちである。しかし、注文の一語には、その場所で長く続いた習慣が見えない注釈として付いている。初めて来た者だけが、運ばれた皿を見て、その注釈をあとから読む。
飲み終えて伝票を見ると、書かれているのはやはり一杯分だった。数え方が間違っていたのではない。一杯という単位の方が、思っていたより広かったのである。