花を食べない客

庭の花には、蜜や花粉を目当てに小さな虫がやってくる。花は動かずに食べ物を置き、虫はその場所を覚えて何度も戻ってくる。
ところが、花そのものを食べない客もいる。花弁の近くでじっとして、蜜へ向かって来る虫を待つ。花を食卓にしている虫が、別の虫にとっては食卓へ運ばれてくる料理になる。
同じ場所に集まっていても、全員が同じものを求めているとは限らない。ある虫は花の中へ顔を向け、別の虫は、その背中へ顔を向けている。一つの中心から、食べる方向が二つに分かれている。
花は、来る者を選んで蜜の場所を知らせているわけではない。匂いや色が届けば、蜜を必要とする虫が来る。そして、その虫が来ることを知る者も来る。花から始まった知らせは、食べる者を一段ずつ変えながら遠くまで届く。
小さな虫が近づくと、花の上の影がわずかに動いた。蜜を見ている者と、その者を見ている者が、同じ花を中心に別々の食事を始めようとしていた。