或る世界

順番を切る

切り口の数だけ、待っていた手が同時に動き出す

大きなサンドイッチは、そのままでも食べられる。しかし、一つのまま何人かで分けようとすれば、持てる人は一人だけである。次の人は、最初の人が手を離すまで待たなければならない。

包丁を入れても、食べ物の量はほとんど変わらない。それでも、二つに切れば二人の手が伸び、さらに小さくすれば、それぞれが同時に自分の一片を持てる。

切り分けるのは、一人分の量を決めるためだと思っていた。だが、同じ大きさに揃えなくても、切るだけで変わることがある。一つを手渡していく順番がなくなり、何番目に食べ始めるかを決めなくてよくなる。

分けることで増えたのは食べ物ではなく、始められる時刻なのだろう。一人が食べているあいだ、残りの人の時間を止めておく必要がない。包丁は形を分けると同時に、一本だった待ち時間も切っている。

皿から一片を取ると、別の手も隣の一片へ伸びた。どちらが先だったかはわからない。切り口ができたところで、順番そのものが要らなくなっていた。