輪にも上がある

丸いものには、本来、上も下もないように思える。卓上に置いた輪は、少し回しても同じ形のままで、どちらを正面にしても間違いにはならない。
ところが、壁へ掛けると、輪にも上ができる。紐を受ける一点がいちばん高くなり、その反対側に重さが集まる。飾りが片側へ寄っていれば、正しい向きはさらに明らかになる。
形だけを見れば同じでも、使い方が向きを決めるものは多い。皿は棚に立てれば横向きになり、鞄は持ち手をつかめば底が決まる。ものの上下は、輪郭の中に初めから描かれているとは限らない。
人が立つ方向や、重さを預ける場所によって、それまで同じだった周囲の一点が「上」になる。輪は回せなくなったのではない。回せば掛けられるが、飾りの重さが、元の向きへ静かに戻そうとする。
壁から外して卓上へ置くと、上だった場所はただの一点へ戻った。輪の中から上下が消え、次にどこで支えられるかを待っていた。