或る世界

借りものの輪郭

空いているところほど、立つ場所から景色を借りる

展示室で立体の周りを歩くと、向こう側が抜けて見える部分だけが、歩く速さに合わせて姿を変える。白い壁だったところへ人が入り、数歩進むと別の作品の色が現れる。

立体の輪郭は動いていない。変わるのは、その内側へ遠くから届く景色である。空いている部分には固有の色も模様もないため、見る人が立つ場所から、背後にあるものを一時だけ借りる。

窓なら、その先に見せたい景色を考えて建てることができる。しかし、展示室を歩く人の視線には決まった正面がない。作品同士は離れて置かれていても、少し屈んだり横へ動いたりするだけで、一つの輪郭の中へ別の作品が入り込む。

それは二つの作者が相談して作った組み合わせではない。触れ合うことも、どちらかが変形することもなく、見る位置にいるあいだだけ成立する。

もう一歩横へ動くと、借りていた色は輪郭の外へ出た。空白へ戻ったのではない。次にそこへ入るものを、何も選ばず待つ形へ戻ったのである。