或る世界

同じ印は二度ない

同じ形を押すたび、違う一回だけが紙に残る

判子は、同じ形を何度も作るための道具である。一度押した印と次の印が違っていては、役目を果たしていないようにも思える。

しかし、実際に紙へ押してみると、完全に同じにはならない。インクが少なければ線がかすれ、多ければ細い隙間がつぶれる。真上から力を加えたつもりでも、片方の縁だけ薄くなることがある。

複製という言葉からは、最初の一つがそのまま増えていく様子を想像する。けれども、判子には押すという動作が毎回必要で、そのたびに手の傾きや紙の硬さが間へ入る。同じ印面から生まれたものは、双子にはなれても、一枚のコピーにはなれない。

判子を持ち上げると、片方の縁が少しだけ途切れていた。それは複製の失敗というより、そこへ一度、手が下りた跡のように見えた。