誰も乗らない速度

誰も乗っていないエスカレーターが動いていると、仕事だけが先に始まっているように見える。人を運ぶための階段なのに、運ぶ人が来る前から同じ速さで段を送り続けている。
利用する側は、入口へ足を置けばすぐ運ばれる。その一歩のために、機械がどれほど空の段を回していたかは知らない。待たずに使えることを、初めから当然だと思っている。
待機というと、止まって誰かを待つ姿を思い浮かべる。しかし、すぐ役に立つためには、動きながら待たなければならないものもある。誰もいない時間の運動は無駄に見えるが、その無駄が、最初の人の待ち時間を引き受けている。
一人が乗ると、空だった段に靴が置かれた。機械の速度は何も変わらない。仕事を始めたのではなく、続けていた仕事に、ようやく相手が現れたのである。