或る世界

一度だけの酸味

短い酸味が、同じ味の途中に境目をつくる

濃い味のものを食べ続けていると、最初の一口ほど味がわからなくなってくる。料理が薄くなったのではない。口の方が、その濃さを普通だと思い始めるからだ。

皿の端にあるピクルスは、一切れしかない。先に食べればすぐなくなり、最後まで残せば、主菜を食べるあいだ役目がない。そこで、味に慣れてきたところで口へ入れる。

酸味は長く続かない。二口も食べれば消えてしまう。それでも、次に主菜へ戻ると、塩気や香ばしさが少し強く感じられる。料理は同じままなのに、食べる側の基準だけがいったん外へ動いたのである。

一切れの付け合わせは、量では主菜にかなわない。しかし、食事を前半と後半へ分けることはできる。皿からピクルスがなくなったあとにも、その短い酸味の向こう側で、同じ味がもう一度始まった。