或る世界

停止は動いている

動かない一点を守るため、見えない速さが要る

立ち止まる、と言うと、動くのをやめることのように聞こえる。しかし同じ場所に留まるために、動き続けなければならないことがある。

空中で蜜を吸う虫は、位置をほとんど変えない。その一方で、翅だけは形が見えないほど動いている。遠くへ進むためではなく、遠くへ行かないために速さを使っている。

同じ場所にいることを、進んでいないと考えがちである。だが、そこから離れないために使った力は、移動した距離には表れない。話を中断せず聞くことや、一つの考えから逃げずにいることにも、外からは見えない動きがあるのかもしれない。

虫は花から離れると、急に輪郭のある飛び方へ戻った。見えなかった翅の仕事だけが止まり、止まって見えた時間の方が、むしろ激しく動いていたように思えた。