或る世界

止まるまでの速度

終わりに近づくほど、ゆっくり進む技術がいる

何かを終えると決めれば、あとは止まるだけだと思っていた。始めるときには勢いが要るが、終わる方は力を抜けばよい、と。

自転車は、速く走っているあいだより、止まる直前の方がふらつく。ペダルを踏めば前へ進む力が車輪を支えてくれる。速度を落とすと、その助けが少しずつなくなり、身体だけで左右の均衡を取らなければならない。

続けてきたことを終えるときにも、似た時間がある。新しい仕事を増やさず、残ったものを渡し、途中の考えを言葉にする。前へ進むためなら省けたことを、止まるためには一つずつ拾う必要がある。

急に止まれば、決めた場所を通り過ぎたり、後ろから来た人を驚かせたりする。だから終わりに近づくほど、進まないための操作が増えていく。止まることは、動かない状態ではなく、動いているものを静かにそこへ連れていく仕事なのだ。

最後に片足を地面へつくまで、自転車はまだ走っている。終わりは点ではなく、その点へ向かって速度を落としていく短い道なのかもしれない。