或る世界

手を預けるだけ

頼ることは、歩く仕事をすべて渡すことではない

手すりにつかまって歩く人を見て、自分の力だけでは歩いていない、と考えることがある。しかし、手すりが人を目的地まで運ぶわけではない。足を前へ出す仕事は、その人の身体に残っている。

手が預けるのは、身体の重さのすべてではない。少し横へ傾く分や、次の一歩を出すまでの迷いを引き受けてもらう。支えられている部分と、自分で動かしている部分は、一つの身体の中に同時にある。

誰かに頼ると、自分でしていることまで小さく見積もりたくなる。教えてもらって作ったもの、背中を押されて決めたこと、そばにいてもらって越えた時間。それらを、自分だけの力ではなかったという理由で、自分の歩みから差し引いてしまう。

だが、支えは歩いた距離を奪わない。倒れそうな方角を預けたからこそ、前へ進む力を使えたのかもしれない。

頼らずに歩くことだけが、自分で歩くことではない。手を預けたままでも、足は自分の次の一歩を選んでいる。