或る世界

帰る仕事場

人のあとから、仕事場も同じ道を帰っていく

仕事が終われば、仕事場から離れて家へ帰る。机も椅子も機械もその場へ残し、人だけが鞄を持って移動する。その順序を当たり前だと思っていた。

移動販売の人は、帰るときに仕事場を置いていかない。看板をしまい、窓を閉め、運転席へ移る。エンジンがかかれば、調理台も棚も、その日に使った道具も一緒に動き出す。

働く人が仕事場を離れるのではなく、仕事場の方が働いていた場所を離れるのである。人が通勤するのではなく、厨房が通勤する、と言ってもよい。信号で隣に並んだ車から見れば、それは帰宅途中の店なのだ。

仕事場には、働く人が戻るのを待つものと、働く人と一緒に帰るものがある。暗くなった車内にも、道具は仕事を終えた順に収まっている。次にどこかで窓が開くまで、店と人は同じ道を帰っていく。