或る世界

扉一枚の遠さ

同じ路地にいても、それぞれの夜は扉の内側にある

店を出ると、さっきまで聞き分けられていた声が、扉の向こうで一つの音になる。誰が何を話しているのか知っていたはずなのに、閉じた途端、隣の店から漏れる笑い声と区別がつかなくなる。

店の中では、そこにいる人たちの話が夜の中心だった。注文を待つ時間も、誰かが席を立つ気配も、その部屋にいれば意味を持っていた。しかし、外へ一歩出れば、中心は扉の内側へ残り、自分だけが別の場所へ移る。

細い路地では、数歩ごとに別の会話が続いている。壁を隔てた隣の店までの距離は短い。それでも、片方で交わされた冗談を、もう片方の人は知らない。同じ時刻に近くにいることと、同じ夜を過ごすことは、ずいぶん違うらしい。

振り返ると、出てきた扉はもう閉じていた。中の人たちにとって、こちらは少し早く帰った一人のままだろう。私にとっては、聞き取れない声のする店が一軒増えていた。