或る世界

道にならない方向

行けない方向へ目を向けると、足元の迷いがほどける

街で道に迷うと、前後左右を順に確かめる。どの角を曲がるか、来た道へ戻るか。身体が進める方向には、どれにも次の選択が待っている。

ところが、建物の間で上を向くと、そこだけは道になっていない。上も確かに方向の一つだが、空へ向かって歩くことはできない。窓の中なら階段や昇降機が運んでくれるとしても、路上にいる身体には行き先にならない。

案内の矢印は道を示しても、行き先までは決めてくれない。上向きの視線には、そもそも矢印がいらない。進めない方向だから、正しい道を選ぶ必要もない。

道に迷っている最中にも、上は行き先を何も教えない。しかし、進めない方向だからこそ、しばらく選ぶことをやめられる。首が疲れるまで見上げてから顔を戻すと、交差点は何も変わっていなかった。それでも、次に曲がる角を、さっきより急がずに決めることができた。