一人分の境界

大皿料理を取り分けるとき、最初に箸を伸ばす人は少し遠慮する。自分が食べたい量ではなく、まだ手をつけていない人の分を考えながら箸を動かすからだ。
人数で割れば一人分は決まりそうだが、食欲は同じ大きさではない。多く食べたい人もいれば、別の料理を待っている人もいる。最初から均等に分ければ公平に見えるものの、少なくてよい人の皿にも同じ量を置くことになる。
鍋から一つ取ると、溶けたチーズが隣の具まで引いてきた。一人分だけを選んだつもりでも、きれいには離れてくれない。箸を高く上げるほど細く長く伸び、どこまでが自分の分なのか、境目がいっそう曖昧になった。
結局、最初は小さく取り、足りなければ後でもう一度取ることにした。皿へ移したところでチーズの糸は切れた。別々の一人分になったはずなのに、どの皿にも、同じ鍋から分かれてきた跡が残っていた。