或る世界

裏返すまで

不便な順番が、一枚ぶんの時間をつくっていた

音楽を聴くとき、一曲を選ぶまでの時間はほとんどなくなった。題名を思い出せなくても、歌手の名前や歌詞の一部を入れれば、目的の曲まで連れていってくれる。

カセットテープでは、一曲だけを聴くにも、その曲がある辺りまでテープを送らなければならない。行き過ぎれば少し戻し、終わりまで来れば面を裏返す。聴きたい曲の前後に、望んでいなかった時間が付いてくる。

便利になったのは、音楽ではなく、選択なのかもしれない。曲は以前と同じ長さで流れるが、そこへたどり着くまでの迷いや待ち時間は消えた。その代わり、目的ではなかった曲を、順番だからという理由で最後まで聴くことも少なくなった。

すぐ選べることは、すぐ替えられることでもある。気分に合わなければ次へ進み、冒頭で心をつかまれなければ別の曲へ移る。裏返すまで聴くという不便さは、一枚ぶんの時間を途中で逃げずに受け取るための、不器用な仕組みでもあったのだろう。