或る世界

低い屋根

高さだけでは、街との近さを測ることはできない

街にいると高層ビルを見上げ、そのあいだに残った空の狭さを感じる。遠くからでも見え、地図の目印になり、何階あるのかを知りたくなる。高さは数字にできるから、比べるのにも都合がよい。

しかし、街を歩くとき、高さだけが建物の尺度ではない。遠くから見つけるのは高い塔でも、近づいて読めるのは低い建物の窓や扉である。高いものが空へ伸びる一方で、低いものは人の歩く場所に沿って広がっていた。

通りを歩く人にとって、実際に入口を探し、窓を眺め、軒下で足を止めるのは、こちらの建物かもしれない。塔の先から目を下ろすと、丸い屋根が青空を浅い器のように受け止めていた。