或る世界

仮設の時間

途中にしか立てない場所にも、固有の時間がある

工事中の建物を見上げると、完成後には消えてしまう場所で人が働いている。やがて外される足場も、いまはそこにしか届かないための床であり、完成した建物の不完全な写しではない。

建物が完成すれば、途中にあった仕事の多くは壁の内側へ隠れ、足場も取り外される。しかし、最後になくなることを前提にしたものが、完成までのあいだを立たせている。

一つの期間を終え、次の暮らしへ移る。出口と入口を先に決めると、間にある時間まで一つの通路のように思えてくる。前を片付けるための時間、次を始めるための時間。どちらにも属さない部分は、予定表の余白として扱ってしまいそうになる。

だが、足場は建物ではないから無意味なのではない。そこにしか立てない人がいて、そこからしか届かない場所がある。完成すれば消えてしまう眺めを、仮の床が支えている。

何かを終え、次を始めるまでにも「仮設の時間」があるのだと思う。何者であるかを説明しにくく、あとから振り返れば短い期間に見える時間。それは次の場所へ渡るためだけにあるのではない。そこでしか考えられないことや、そこでしか見えない高さがある。

何が完成するのかを急いで考えず、私はしばらく、途中にしかない高さを眺めていた。